本当の嘘
2008/9/9〜9/15 at神保町花月
[脚本]
小堀裕之(2丁拳銃)・宮丸直子
[演出]
高梨由(TRAPPER)
[出演]
2丁拳銃/犬の心/フルーツポンチ/キシモトマイ/
鳥居俊介(フレンチブルドッグ)/嶋田修平(TOKYO無鉄砲)/烏龍パーク/
星野里佳/大星圭子(TRAPPER)/小林千紗(TRAPPER)/少年感覚
<キャスト> ささ(2丁拳銃・小堀):68歳の女性入院患者。「ささばあちゃん」と周りから親しまれている。病名は不明だが、あまり病状は芳しくない。雨の日になると古傷の首が痛むため、雨の日が嫌い。一時は亡き夫に代わり会社を経営していたこともあるが、結局倒産。現在は孫息子のタカシが心のよりどころで、その成長が楽しみであり生きがい。 ヒロセ(2丁拳銃・修士):キタムラ総合病院の勤務医でささばあちゃんの主治医。嘘が大嫌いで、患者がショックを受けるようなことも取り繕ったりせずそのまま告げたりするため、患者から嫌われている。それでも一向に意に介せず、「嘘をついてまで人に好かれようと思わない」と公言。院長の甥であるため、次期院長候補と噂されている。 マスブチ(犬の心・池谷):キタムラ総合病院の勤務医。いつも愛想良く優しく患者に接し、多少のわがままは見逃してくれるなど話が分かるため、人気者。院長の娘と婚約話が進んでいる。時に調子が良すぎる。また、浪費癖もあり。“善処マン”になったりもする(笑)。 オカベ(犬の心・押見):ミツボシ製薬会社のMR。マスブチに接近し、自社の製品を扱ってもらおうとするが、真の目的は違うところにある。亡き父から教えられた手品が得意。その父はリストラを苦に自殺している。 リョージ(フルーツポンチ・村上):マスブチの担当患者。ヤクザで、お腹を刺されて入院中(本人曰く「組長を庇って自分が刺された」)。人懐こいが人見知り。心を開いた人の前では病室で自作の歌(「♪お休みのキッスが、ま〜だだよ〜(ま〜だだよ〜)」)を熱唱することもある。 フジイ(烏龍パーク・加藤):マスブチの担当患者。胃潰瘍で入院中。すぐへこむ。人に流されやすく、おろおろするあまり病院内をちょろちょろ動き回っては怒られる。 タカシ(フルーツポンチ・亘):ささばあちゃんの孫。プリンが大好き。将来は医者になりおばあちゃんの病気を治すことが夢だが、最近成績が落ちている。 タカシの父(烏龍パーク・橋本):ささの息子。 キタムラ総合病院の看護師:キシモトマイ/星野里佳/大星圭子(TRAPPER)/小林千紗(TRAPPER)。 役名は忘れましたが、Wキャストの星野さん&小林さんはリョージに惚れている設定。 リョージの舎弟:フレンチブルドッグ・鳥居/TOKYO無鉄砲・嶋田。役名があったかどうか曖昧。組長の伝言をリョージに伝えに来る。リョージを慕っているらしく、初めて見舞いに来た時は「敬称略・兄貴」という名曲を病室でお披露目。最後、リョージの本当の入院理由を明かす。 医師A・医師B:少年感覚・向坂/少年感覚・久松。本編ではセリフは一切無く、場面転換のときに登場。雨降りのシーンの時はレインコートを着て登場するなど、なかなか細かかった。 <あらすじ> キタムラ総合病院に入院中の3人(ささばあちゃん、リョージ、フジイ)。 退屈な入院生活を医師(主にヒロセ)の悪口や噂話で紛らせているが、ささばあちゃんは孫のタカシの見舞いが入院生活の何よりの楽しみ。 そんな折、ミツボシ製薬のMRのオカベがマスブチのところにやって来た。 自社製品の売込みが目的だが、自分のあるお願いをマスブチが聞いてくれたら、マスブチが皆に隠している消費者金融からの借金の融通も引き受けるといい、お願いを耳打ちする。 オカベの頼みを聞き、病院内を案内するマスブチ。 ささばあちゃんの病室に着くと、部屋の主は席を外していたが、リョージ、フジイ、タカシ、ささの息子がいたので、彼らに手品を披露するオカベ。 鮮やかな手品に魅入られる一同。 戻って来たささばあちゃんは、手品を披露する青年の名前が「オカベ」と聞き、微かに首をかしげる。 母親に話がある息子だが、タカシに聞かれては困るというそぶり。 フジイはタカシを散歩に連れ出す。 タカシが出て行ったことを確認すると、タカシの成績が一向に上がらないことをささばあちゃんに告げる息子。 これを聞いたささばあちゃんは「もうタカシを見舞いに来させんでエエ」「身体がもたんわ」と言い出す。 「せっかく見舞いに来たってんのにそんな言い方せんでも...」と不満げな息子に「その上から目線の言い方が腹立つのよ。見舞いに来られるとしんどいねん」と売り言葉に買い言葉で対応し、運悪く散歩から戻って来たタカシに聞かれてしまう。 傷ついた表情を浮かべ、走り去るタカシ。 もう二度と見舞いに来ない、と言い捨て、タカシの後を追う息子。 心配する他の患者達。 強がりを言うささばあちゃん。 一方、オカベはささばあちゃんの病室に頻繁に出入りしては手品を披露するなどし、ささばあちゃん始め他の患者ともどんどん親交を深めていく。 オカベの見事な手品の腕前に感心するマスブチ。 手品の種を教えて欲しいと頼むが、 「知らなくて良い本当の嘘もあるんです」 と意味深なことを呟くオカベ。 父親の口癖で、手品も父から教えてもらったという。 父親の現在の状況を訊ねるマスブチに、父は自殺したと告げるオカベ。 一生懸命真面目に働いていたのに、社長が会社を倒産させてしまい、オカベの父はリストラに遭う。 失業から人生の歯車が狂い、とうとう自殺してしまった...。 マスブチ先生は自殺を追いやった相手を許せますか?と熱っぽく語り出すオカベの前に、「悪いのは親父さんだ」と偶々通りがかり話を聞いていたヒロセが現れる。 「私達医者は命を助けるために毎日頑張っている。理由が何であろうと自分で自分の命を絶つことは許されない。親父さんを殺したのは誰でもない親父さんだ」と正論を説くヒロセ。 憎らしげにヒロセを睨み付けるとその場を去るオカベ。 オカベの名前をヒロセに尋ねられたマスブチは、相手が誰なのか分からないのにあんなことをよく言えますね、と非難するが、相手が誰だろうと真実は変わらない、嘘を吐いてまで好かれようと思いませんからね、と相変わらずのヒロセ。 しかし、別れ際、止む気配が無い雨空を見ながら 「大丈夫かな、ささおばあちゃん。雨の日は古傷が痛むって言ってるでしょ。...だいぶ悪いんですよ」 と、普段のヒロセから想像もつかない言葉をぽつりと漏らす。 雨が上がったある日の病室。 晴れの日は古傷が痛まないので機嫌が良いささばあちゃん。 リョージ・スカイウォーカーことリョージのリサイタルで盛り上がるいつもの面々。 休憩になり、フジイはタバコを買いに行こうとするが、オカベは自分が買って来ると押し留める。 リョージのリクエストの「サーターアンダギー」、ささばあちゃんリクエストの「優しさ」を求め外に出るオカベ。 リョージも舎弟が見舞いに来たので自分の病室に戻る。 2人きりになったフジイとささばあちゃん。 今まで聞いたことがなかったから、とささばあちゃんの半生を尋ねるフジイ。 夫を早くに亡くしたため、夫に代わり家業を切り盛りし女社長と呼ばれていたささばあちゃん。 「3分の2ぐらい嘘吐いてた方がちょうど良いねん」 「でもな、嘘吐いている自分が段々嫌になんねんな」 「会社が倒産した時は辛かったけど、これでもう嘘吐かんでええと思った」 と、意外な過去を話すささばあちゃん。 全然そんなことあったようには見えんなぁ、と感心するフジイにうちはポジティブやから、と返すささばあちゃん。 お使いから戻って来たオカベも途中から黙って聞いていたが、ささばあちゃんに倒産した時の社員は今頃どうなってるか知ってるかと尋ねる。 良くは知らんけど、みんなうちみたいにポジティブに頑張ってんのと違う?と返事をするささばあちゃん。 そして、こんな病室に出入りして楽しいの?と逆にオカベに尋ねる。 ここに来ると楽しいんです、と笑顔で答えるオカベ。 そんなオカベに夫の形見の懐中時計をプレゼントするささばあちゃん。 タカシに一度あげたことがあったが、古過ぎるからと返されたそう。 タカシが見舞いに来なくなって随分と時が経った。 日に日に体調が衰えてくるささばあちゃんに検査結果が悪いことを告げるヒロセ。 そんな結果は信じないと突っぱねるささばあちゃんで、相変わらず議論は平行線。 突然、タカシが見舞いに来たかどうか尋ね出したささばあちゃん。 来てないです、と正直に告げるヒロセ。 ヒロセの反論は聞こえないかのように、買い物に行った間に来たかもとか、トイレに行っている間に来たかも、とかありとあらゆる仮定をヒロセにぶつけるささばあちゃん。 いたたまれなくなり、時々目を逸らすヒロセだが、まっすぐささばあちゃんの目を見て「...来てません」と告げる。 「...ちょっと、嘘でも『来てた』って言うてよ...」と懇願するささばあちゃん。 サンタクロースを例に挙げ、「人のためになる優しい嘘もあるやないの」と呟くささばあちゃんに「…でも嘘は嘘だ」と持論を曲げないヒロセ。 点滴を打つヒロセに尋ねるささばあちゃん。 「...タカシ、来てた?」 「...来てません」 処置が終わるや否や、泣き顔を見られまい、とするように布団で顔を覆う。 消灯後の病室。 眠っているささばあちゃんのところに<誰か>が現れる。 手には注射器。 ささばあちゃんであることを確認し、注射をささばあちゃんに打とうととした時.. 「誰だ!」 と異変に気づいたヒロセが病室にやって来て、懐中電灯で侵入者の顔を照らす。 闇に浮かび上がった顔は...オカベ。 動揺し、棚を壊すオカベ。 「何故、こんなことを...」と絶句するヒロセ。 それに対し 「こいつが悪いんだーっ!!」 と絶叫し、ささばあちゃんを指差すオカベ。 オカベの父はささばあちゃんの会社の従業員だった。 会社に裏切られ、傷心のままこの世を去ることになる状況に追いやったささばあちゃんを許せないオカベ。 「親父を殺したのはこいつだ!」 と興奮気味にまくし立てるオカベに 「だからって殺して何になる!...そんなことをしなくてもこの人はもうすぐ死ぬ」 と、オイオイな事実を付け加えながら一喝するヒロセ。 衝撃の事実を耳にし、思わず身体を起こすささばあちゃん。 ささばあちゃんはオカベが病室に入ってきたときから目が覚めていたという。 そして、オカベが自分の元従業員の子供であることも初めて見た時から分かっていた、と。 幼い頃会社に連れてこられたときの面影が残っていたし、何よりも 「オカベはんと手品がそっくりやったもん。あんたのやった手品、みんなお父さん譲りや」 呆然とするオカベに 「あんたは人の嘘を見抜かれへんのやな。手品が上手い人はな、人を楽しませることが好きな人や」 人を楽しませる嘘は吐けるのに、と愛おしそうにオカベを見ながら、オカベの父や会社を守れなかったことを謝るささばあちゃん。 いたたまれなくなり、病室を飛び出すオカベ。 ヒロセは警察に連絡しようとするが、ささばあちゃんはそれを止める。 「...オカベさんの手品はそんなに上手かったんですか?見たかったなぁ」 「先生はダメや。騙されてあげることを知らんやろ。人を騙すために吐く嘘もあれば、自分を守るために吐く嘘もあるの」 謎の不審者侵入事件は一部の人間だけが知ることになり、いつもの生活が始まったキタムラ総合病院の面々。 ナース達が「最近、ヒロセ先生が変わった」「ささおばあちゃんのことを心配するようになった」と噂をしている。 あんなに仲悪かったのに、といぶかしるマスブチ。ナースの一人は 「ヒロセ先生は嘘が嫌いって言ってるけど、本当は自分に嘘吐いてるんじゃないかなぁ」 と、鋭い分析を呟く。 そのヒロセはささばあちゃんの病室にいた。 ナースにささばあちゃんの家族を呼ぶよう指示するヒロセ。 ナースが出て行った気配に気づいたのか、うっすらと目を開けるささばあちゃん。 気づきましたか?と話し掛けるヒロセに「...タカシの夢見てた」と嬉しそうに告げる。 初めて「ばあたん」と呼んでくれて嬉しかったこと、小学校に入学する時にランドセルを買ってあげたら物凄く嬉しがっていたことなど、とりとめもないことを話し出すささばあちゃんを黙って見つめるヒロセだったが、 「...タカシがな、結婚すんねん。ミユキさんいうてな。ミユキさんみたいにしっかりした人やないとタカシはアカンから」とか(ミユキは本当の嫁の名前) 「タカシ、医者になったんや。おばあちゃんの病気治す言うてくれて...」 と、次第に本当と嘘の区別がつかなくなっていくささばあちゃんに思わず「おばあちゃん!」と声を掛ける。 一瞬、正気を取り戻したささばあちゃん。 「...うち、もうアカンか?」と穏やかにヒロセに尋ねる。 口ごもるヒロセだが、振り絞るような声で 「...ハイ」と返事をする。 「...そうかぁ、アカンかぁ。...本当に嘘吐かへんなぁ.」と苦笑いすると、朦朧とした調子の声で 「タカシ見舞いに来てなかった?」と、ヒロセに尋ねる。 「...ハイ。来ましたよ」とささばあちゃんを真っ直ぐ見て微笑みながら答えるヒロセ。 「...そうかぁー、嬉しいなぁー」と安心したように呟くささばあちゃん。 今日の天候を尋ねるささばあちゃん。 「晴れです。あなたが好きな晴れです」というヒロセの答えを聞くと、もう心残りはない、とでもいうように静かになる。 雨の日は痛むという首を押さえながら。 そして、外からは段々強まる雨足の音...。 ささばあちゃんの亡骸を迎えに来た息子とタカシ。 タカシは立派な医師になってまたここに来ると約束する。 時間を尋ねられたタカシはポケットから立派な懐中時計を取り出す。 「表でね、オカベのおじちゃんに貰ったんだ。僕が持っておけって」 同じ日に退院するリョージ。 告白されたり、恋人が出来たりと忙しい入院生活だったが、迎えに来た舎弟の一言で事態は一転。 騙したり騙されたり。 皆、 「本当」と「嘘」の間を行ったり来たり。 <(とりとめのない)感想> 神保町花月で同じ公演を2回見る(9/13&9/15)のは今回が初めて。 1回目はメモも何も取らずに鑑賞し、2回目は1回目見たときは気づかなかった伏線や気になるセリフなどをささっとメモをとったりしたが、2回とも同じところで泣いた。 (あっ、やばい、泣く!)という前兆なしに、自然にすーっと涙がぽろぽろ零れた。 そのメモ片手に記憶を呼び起こしながらまた泣く、という有様で、三連休は殆ど泣いて過ごしたような気がする。 2丁拳銃が作るコントは、笑わせるけれども泣かせるものが多いので、泣かされることには慣れている筈だったが、ラストの臨終シーンは近年稀に見るほどにとにかく泣かされた。 ただ、今までは話の展開に泣かされたけれど、今回は初めて演技に泣いたと思う。 現実と夢の間を行ったり来たりし始めたささばあちゃんが、自分だけ見えているタカシの将来を語る時の嬉しそうな口調が聞きながらとても悲しかったし、ささばあちゃんに対し最初で最後の嘘を吐く時、本当のことを言う時と同じように、まっすぐ目を見て話していたヒロセの優しさも切なかった。 「世の中のいい人と言われている人は3分の2ぐらい嘘を吐いている」が、今回のお芝居の鍵となるフレーズ。 2回目となる15日は<登場人物が吐いている“3分の2の嘘”は何か?>や<“3分の1の本当”は何か?>ということも意識しながら見ていた。 一番考え込んだ<3分の1の本当>のエピソードは、個人的にはオカベだった。 オカベはある人達にとっては、腰が低い好青年であったり、手品が上手くて周囲が自分の手品に驚いたり盛り上がったりしている様子を嬉しそうに笑っているごく普通の若者だが、一方で眠っているささばあちゃんを前にして、少しも躊躇うことなく注射を打って殺そうとした男も、紛れもなくオカベ本人である。 オカベ自身が思っていた<本当の自分>は、恐らく、<復讐のためささばあちゃんを殺したい自分>だったと思う。 そのささばあちゃんも、孫を心の底から可愛がっているお婆ちゃんであったり、嫁と若干そりが合わない姑だったり、夫亡き後必死に会社を切り盛りしていたポジティブ思考の元女社長であったり、医師に憎まれ口叩くぐらい元気そうに見えて予断を許さない病状を抱えている患者であったりするが、オカベにとっての<本当のささばあちゃん>は、大好きだった父を自殺に追いやった張本人で、殺したいほど憎い存在にすぎなかった。 置かれている状況や相手の主観によって、印象が全く異なる<自分>が何人も存在する。 「嘘」はネガティブな言葉だ。 「嘘つきは泥棒の始まり」と言われるし、昔話でも嘘つきは必ず最後に失敗し最後に得するのは正直者だ。 しかし、<本当のこと>がいつも正しいかといえばそうではなく、敢えて隠し通したり守り抜かなければいけない<本当のこと>も少なからずあることを大多数の人は知っている。 「3分の1の本当」と「3分の2の嘘」。 きれいなのはどちらだろうか。 苦いのはどちらだろうか。 悲しいのはどちらだろうか。 優しいのはどちらだろうか。 救えるのはどちらだろうか。 後から色々考えた。 ========= ものすごく余談だが、「ささ」は、一花ちゃんが生まれた時、小堀さんが修士さんに命名の候補として提案して却下された「咲々(ささ)」から来てるのだろうか。 セットのネームプレートでは平仮名だったが。 (08/9/19記) |