笑福亭鶴瓶落語会
(10/10/01 於紀伊國屋サザンシアター)
[出演]
笑福亭鶴瓶
<前半> 1.鶴瓶噺 オープニングは洋装&立ちスタイルでの鶴瓶噺。 四国を股にかけて、世直しと不景気に挑んでいる高校時代の先輩の武勇伝や、市井の怒っている人の報告など。 2.私落語「CHINGE」 ある日、鶴瓶さんがタクシーに乗って見たら、運転手がどうも高校時代の同級生。 しかし、運転手は「駿河〜(本名)」と話しかけて来ない。 同級生は短い天然パーマの髪型だったため、高校生の頃は「チンゲ」と呼ばれていた。 (チンゲやったら、絶対話しかけてくるはずやから、こいつ、チンゲちゃうんか?でも、名札の名前はチンゲと同じやし…。チンゲか?チンゲちゃうんか?) と、悶々としていた鶴瓶さんに、“もう一人の自分”が、確実にチンゲと見分けることが出来る<あること>をやれ、やれ、とけしかけてくる。 アカン、やれ、アカン、やれ、アカン、やれ、と必死に格闘していたが、もう一人の自分が勝ってしまったので、賭けに出る。 行動に出た後、 「オマエ、チンゲやろ!」「分かってくれてた〜!」。 という、エピソードを事あるごとに語っていたが、くまざわあかねさんがこのエピソードを同級生の視点での噺に仕立てて来たのだそう。 「鶴瓶噺」を違う目線から見た「私落語」。 この噺は、他の作者さんが作った噺、という点でもいつもの私落語とは異なるが、「駿河学」ではなく「笑福亭鶴瓶」が出てくる点も、他の私落語とは一線を画していると思う。 “笑福亭鶴瓶”が“笑福亭鶴瓶”を演じている。 そして、<駿河学である笑福亭鶴瓶>と<笑福亭鶴瓶である駿河学>が巧みに入れ替わる。 一方、 高校卒業後、付き合いが途絶えていた運転手もといチンゲ氏は、客が鶴瓶さんもとい高校時代の同級生のまーちゃんだと気づくも、(まーちゃんが乗って来た…。でも、まーちゃんはオレのこと覚えてくれてるんやろか…)と、こちらはこちらで悶々としている。 <立場は変わっても、友情は変わらない>というテーマは、仲入り後行われる「錦木検校」に実は繋がっていたが、この時は知る由もなかった。 3.私落語「青木先生」 (鉄板ネタが来た)と思ったら、ご本人自らも「鉄板の落語です」と抜け抜けと豪語。 六人の会をやっていた頃、大トリを任されることになった時、この噺があったから切りぬけることが出来た、この噺があって良かった、とも。 私はこの噺に当たることが割と多いが、「ぴー」もさることながら、入れ歯を調整する時の「グワァッ」という呻き声のリアリティが回を増すごとに増しているような気が。 4.「錦木検校(にしきぎけんぎょう)」 仲入り後は古典。 “検校”とは何か、など、この噺にまつわる事項を軽く説明。 ちなみに検校は、盲人の役職では最高の地位のこと。 また、この噺は柳家喬太郎師の噺を参考にしているという。 喬太郎さんに非常にハマっているとのこと。 これは個人的に嬉しい。 繁昌亭の独演会で掛けた際に録音してもらったので、聞いてみたらなかなか客の反応も良かったのでこれならば…と思ったところ、会場を出て行く時の「あぁ〜、よう寝たわ〜」というオバハンの宣言がしっかり録音されていて、自信なくすわ、とのこと。 敏腕マネージャー・宇木氏に2回聞かせたところ、2回ともそれはそれは気持ち良く爆睡してくれたそうで、自信無くすわ、と。 これはそういう噺なので…と前置き?して、いざ噺に。 酒井雅楽頭には3人の子どもがいるが、末っ子の角三郎とはそりが合わず、大塚の下屋敷に遠ざけている。 そんな折、角三郎の身体の凝りをほぐしてもらおうと、角三郎の家臣が按摩を呼ぶ。 按摩の名前は錦木。 錦木と角三郎は、初対面ながら意気投合する。 角三郎は錦木に敢えて素性は明かしていなかったが、錦木は施術を行いながら「貴方様は大名様と関係はありますか?大名となる骨相をしておられます」と鋭いことをついて来た。 正体は明かさなかったものの、「自分は大名になる骨相をしておるか。よし、もしそうなったら、錦木、お前を検校にしてやろう」と約束する角三郎。 しばらくのち、錦木は雨にぬれたのがたたり、風邪をこじらせてしまい床についてしまった。 食事を摂るのもままならない錦木を心配した長屋の住人がおかゆを持って来たが、錦木が寝込んでいる間に、酒井のお殿様が隠居をし、後継ぎが大塚にいた角三郎に決まったことを教える。 驚いた錦木は「それなら、わしは検校じゃ!」と叫びながら、衰えた体で角三郎のもとへ走るが、門前払いにされてしまう。 何度も突き飛ばされながら、角三郎と約束があることと、角三郎との仲を取り持ってくれた家臣の名前を出し、なんとかお目通しが許される。 目の前に現れた角三郎はすっかり酒井雅楽頭の風格を持ち合わせており、錦木は、角三郎が報われたことを喜びながらも顔を上げることが出来ない。 最初のうちこそ、威厳を持った話し方だった角三郎だが、一息つくと、「おれ、大名になったよ〜!」と浮かれた口調で錦木に話しかける。 「あの時の約束忘れておらんぞ。錦木、今日からそなたは検校じゃ!」と伝えるが、錦木はうつむいたまま動かない。 不審に思い近寄って見ると、錦木は既に事切れていた…。 息絶えた錦木を抱きかかえながら、「死ぬなーっ!」と大絶叫する角三郎。 「お前を検校にする、という約束を果たさんまま死なんでくれ…。お前に話したいこといっぱいあるんや。他の誰でもない、お前にしか言えないことがある。いっぱい、身体もこころもほぐしてもらいたいんや。なぁ、死なんといてくれ、なぁ!」 **** 「錦木検校」は「三味線栗毛」とも呼ばれています。 <検校になった錦木は途端に何かにつけて威厳を持った話し方になり、威張るようになる。 そんな時、雅楽頭が栗毛色をの馬を飼うことになり、その名前が「三味線」ということを知ると、大名なのだからもっと立派な名前を付けた方が良いと錦木は進言する。 しかし、雅楽頭は「わしは酒井雅楽頭じゃ。雅楽が乗るから三味線じゃ。乗る時は引きもするし、止める時はどうともいう」。 これを聞いた錦木、「なるほど、雅楽頭が乗るから三味線。それではご家来衆が乗りましては」、雅楽頭「バチ(撥)が当たる」>。 というように、錦木が死なないパターンの方がどちらかというと一般的です。 また、錦木は結局死んでしまい、葬列が町中を通る時に、向こう側から錦木そっくりの金魚売りが現れて、「えぇ〜金魚ぉ(検校ぉ)〜金魚ぉ(検校ぉ)」と言いながら去っていくパターンの噺も聞いたことがあります。 喬太郎さんがどんな風にやっているのか知らなかったので、(あ、錦木が死ぬなら、金魚のパターン?)と、少々肩透かしに思いましたが、鶴瓶さんのもこのパターンかな、と思っていたら、「死ぬなーっ!」の大絶叫。 続くセリフを聞いていると、父親との確執を乗り越え、大名という絶対的な地位を手に入れた角三郎にとって、錦木はいうもっとも大切な存在であること、また錦木に助けて甘えさせてもらおうと思っていたのにその錦木を喪ったという絶望感や怒りが伝わり、泣こうと思ってなかったのに、自然に涙が浮かびました。 登場人物を殺す、という設定は、見方によっては安直に涙を誘えるため好ましくない、という意見もあったりします。 今回の演出は、錦木の死、という非業的な面よりも、立場を超えた角三郎と錦木の友情に焦点が当てられているため、設定の安っぽさや後味の悪さなどは、私は覚えませんでした。 観客と同じぐらい演者も泣く、というようなことも今回はありませんでした(^^ゞ。 サゲが完結型ではなく、続きものであったので、この後の噺があるとすれば、どのようなことを考えているのだろう、ということにも興味があります。 (10/10/3 記) |