落語寄席 1(09/05/09 於 浅草花月)

【出演】
安達健太郎(カナリア)/山里亮太(南海キャンディーズ)/月亭方正/小堀裕之(2丁拳銃)
林家うさぎ/桂楽珍

 

注: ■...古典落語 □..新作落語(古典落語ではないもの全般) 


<前半>

1.安達健太郎:□「(タイトル不明。敢えてつけるなら「鬼ごっこ」?)」

 人生2回目の落語であることと、客の無遠慮な“アンタ誰?”目線の二つのプレッシャーと闘いながらの一番手で登場。
 自信なさげに出て来た割に、卸した落語は新鮮な視点のサゲからなるもので、他にもいろいろ作れる人じゃないのかなぁと思った。
 もっといろいろ聞いてみたい。


2.山里亮太:■「子ほめ」

 場違いな「情熱大陸」のテーマに乗せて、真っ黄色の着物に真っ赤なメガネで現れた黒い瞳のイタリア人、もとい山ちゃん。
 こちらも落語はほとんどやったことがないとのこと。
 さすが山ちゃんと思うような、独特なテイスト満載の言葉のチョイスが多かったが、漫才ではなんていうことないくすぐりも、落語という形式だと、きつさというかくどさが増すようにも思った。
 「子ほめ」は、割と正調に則ったものだった。


3.月亭方正:■「猫の茶碗」

 非常に愛らしい(笑)ツカミでご登場。
 テレビでみるいじられ芸人・山崎邦正には若干の苦手意識を覚えても、落語家・月亭方正にそのようなことを感じる人は殆どいないのでは、と思う。
 高座に上がっている時の方正さんは、なんともいえず良い表情で落語を繰る。
 落語に惚れこんでいるなぁと思う表情で、そんな様子を見ていると、こちらも膝を正して真剣に方正さんの落語を聞かねば!と思う。

 「猫の茶碗」は去年、京橋花月に「月亭方正」として出た時に披露したネタのようで、思い入れもあるのだろう。
 割とさくさくサゲまで進んでしまう噺なので、次は(下北沢で聞いた「阿弥陀が池」のように)、ボリュームがある噺も聞きたい。


4.桂楽珍:■「青菜」

 芸歴からいってトリと思っていたら、仲トリで登場。
 落語だけの寄席を浅草では今日初めて開くことができました、と高揚ぎみに報告。
 そして、来月もここで落語会があるらしいですよ、と非常にさりげなく(笑)、独演会をPR。
 あいにく、この日は国立演芸場に昼夜とも行く予定がありその独演会を見に行くことはできないので、成功を今から祈ることにする。

 噺に入る前に、師匠である文珍師とのやりとりを再現していたが、文珍師の口調がそっくりだった。
 お弟子さんは師匠のことを本当によく見ている。

 「青菜」はわかりやすい噺の一つだが、誰の噺を聞いてもサゲの一言がピンと来ない。
 今日も同じで、最後の最後で若干へこむ。
 前に出ている言葉を受けてのあのサゲなのだろうけど、掛け言葉には思えないし、だじゃれでは相当無理があるし...。


ここで仲入り。5分ほど休憩になる。

<後半>

5.小堀裕之:□「ハンカチ」

 方正さんの前あたりに出てくるのだろうと思っていたらまさかのモタレ(トリの一つ前)という、重要かつ大変な出順の小堀さん。
 久しぶりに、親戚の子を見守るような心持ちになる。
 あれほどロック、ロックと言っている御仁なのに、出囃子が何故かトトロのテーマだったので、違和感ありまくりだったが、本人もこの出囃子は謎だったよう。
 そして、飄々とした口調で「ビートルズです」とご挨拶。
 普段は2丁拳銃というコンビでやっているが、今日は一人なので笑いも半分ぐらいでいいでしょう、的なことをたらたら〜と話し、仕事で色んなところに行っては変わったことをやらされる、この間も群馬県の嬬恋村で、「60歳のラブレター」の制作委員会と日本愛妻家協会が共同でやったイベント(その名も「キャベツ畑の中心で妻に愛を叫ぶ」)で妻への愛を叫ばされました、というエピソードから、噺に入っていく。

 私が小堀さんの落語を聞いたのはこれで3回目だったが(「2/3の嘘」は未見)、今日の噺は今まで聞いた中で一番ハマっていた。
 07年7月の「サニム」で聞いた噺は、実体験を基にしたものだったが、実の部分がどろどろとして生々しく、最後はいわゆる良い話系でしめられたものの、逆にそのきれいさと噺の内容にギャップがあり、違和感を覚えた。
 08年10月の「サニム」では100%フィクションの親子もので、自分の身を犠牲にしても子を救おうとする親、という、好きな系統の噺だったが、登場人物への愛着や共感を覚えるところまで入り込むことは出来なかった。
 悲しさと温かさが入り混じった世界はいつもの2丁拳銃のネタの世界観と変わらないのに、小堀さんの視点やスタンスが捉えにくく、もどかしかった。
 

 「ハンカチ」は若干倦怠期を迎えつつある夫婦が主人公の噺で、タイトルにもなっている「ハンカチ」はこの夫婦の過去と現在をつなぐとても重要なキーワード。
 サゲに行き着いたとき、噺の伏線がすべて繋がったので、思わず「あぁ〜!」と小声で呟いた。
 自分でもわかるぐらい、顔がみるみるうちにほころんだ。
 気持ち良く、心からの拍手をすることが出来た。

 噺の前半部に出てくる夫のエピソードの9割9分は恐らく実話で、そこに共感を覚えることは難しい。
 夫婦間のやりとりも、微笑ましさとかのろけといったものからは遠い位置にある。
 けれど、2人の間には誰にも壊せない「繋がり」が確実にあり、その部分に上っ面や綺麗ごとにはない、実の美しさを感じた。
 やりながら多少の気恥ずかしさを覚える噺かもしれないけれど、小堀さんの視点がはっきり伝わる噺だった。

 
6.林家うさぎ:■「手水廻し」

 トリで登場したうさぎさん。
 国際結婚をしてらっしゃるそうで、こちらは甘い夫婦関係の模様(^^ゞ。
 お子さんのショーンくんの漢字表記については、もう確定しているのについ(至恩とかどうだろう?)と、身内でもないのについ色々考えてしまった。

 「手水廻し」は割とよく聞く上方落語だが、やる人によっては“手水”の調合や“廻す”部分の描写が詳細すぎて聞きながら若干えずきたくなることもあったりするが、うさぎさんの噺は、その部分はあまりつっこまずさらっと流してくれたので、最後まで楽しく聞くことができた。

 
(09/5/11 記)



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