=“ハリガネ”な男・大上邦博=
大上さんは、「ツッコミ」である。
その、のほほ〜んとした見かけ、天然な言動等、おおよそ「ツッコミ」には見えないが、彼はれっきとした、「ツッコミ」である。
“ユウキロック”と名乗るほど、ロック道まっしぐらの相方に比べて、この人は自ら「ハリガネ担当」と言い切るぐらい、ロックではない。
好きな音楽はサザンであったり、相方から色んな物を売りつけられては、得した気分で買い取ったり、赤ちゃんから年取った人まで年代を問わず使えて、しかも笑わせられる言葉、「ベロベロ」にこだわってたり、若かりし頃、たむけんが作った3日分のシチューを一人で1日で平らげて平気な顔していたり、ちょっと小金が入ったら後先考えずに太っ腹となるので後輩にたかられたり、と本人や仲間が語るエピソードを知れば知るほど、何故にこの人が“激しい”というイメージがある「ツッコミ」なのか、あの熱い男の相方なのか、何だか分からなくなる感じだが、私の短いハリガネファン歴で、大上さんの凄さを悟った出来事が2つある。
1つは、SbFで大上さんがMCだった時。
ゲームコーナーのお題が「ツッコミ対決」ということで、舞台では芸人さんが二手に分かれて、それぞれスケッチブックに書かれたお題についてツッコンでいた。
大上さんはMCということで仕切りをしていたが、よくよく聞いていたら、大上さんも実はそのお題についてさりげなくツッコミながら進行をしていた。
あまりに大上さんのツッコミが自然過ぎて聞き流していたが、実は、一番あの時ツッコミが上手かったのは大上さんではなかっただろうか、と思う。
もう1つは、NHKでの爆笑オンエアバトル第3回チャンピオン大会のO.A。
ハリガネロックファンにとっては忘れられないあのO.A。
完璧と思っていた漫才師・ハリガネロックが、“テントに棲む魔物”に捕まった日。
いつもだと考えられないちょっとしたタイミングのズレが起こって、正確なハリガネの漫才に狂いが生じた瞬間を、チャンピオン大会のO.Aは余すとこなく伝えていた。
誰もが呆然としていた時、いち早く立ち直っていたのは、他ならぬ大上さんであった。
「なんやこれ。まぁええわ、いこっ。気にしてられへん、そんなもん」
ハリガネロックがやってる漫才とは思えないO.Aを呆然としながら見ていた私は、この大上さんの言葉にびっくりした。
(『チャンピオン大会』での失敗を「そんなもん」の一言で片付けられるんだ、この人は!)、と。
その後も、ユウキロックがネタ振りでとちると
「もう、うけるわけないやん。ここは飛ばしていかんかい」、とあくまで突っ走っていた。
計量時に至っては、
「そんなんねぇ〜、ちょっとぐらい間違った方が人間らしいんですよ〜」である。
一歩間違えれば「なげやり」「開き直り」と思われそうなこの発言だが、大上さんのこの一連の発言で救われた感じがした。
何だか、ともすれば清々しささえ感じたのである。
ハリガネの漫才に、狂いが生じるなんて思わなかったので、見ていて唖然としていたのだが、大上さんのこの一連のポジ発言を聞いていたら、何だか大騒ぎすることでも、落ち込むことでも無いような気が段々して来たから不思議である。
計量結果が発表になり、ハリガネロックは200KB台で、チャンピオンは同じ吉本のルート33が2連覇して幕を閉じた。
楽屋でのハリガネロックが映った。
そこには、短時間で吸ったとは思えないほどの吸殻が灰皿に溜まっていた。
そして、カメラに向かって2人は正座すると「すいませんでした!」と言って頭を下げた。
土下座に近いその姿勢は見ていてとても切なかったが、大上さんのやぶれかぶれとも思えるポジ発言が無かったら、もっと切なかっただろうと思う。
相方・ユウキロックは、マイペースな大上さんにちょっとイラっと来ることもあるようだ。
それは有り得るだろう。
ファンは、というか視聴者は良いところしか見ない。
相方にしか分からない、感じられない不満やどうにかして欲しいとこがあるのが当然だと思う。
しかし、あんなに方々から、自分のヘタレエピソードを暴露されても一向にこたえてなさそうな大上さんという存在は、やっぱり凄い。
贔屓目があるにしても、反省しないからこたえてない、というようには、思えないし。
何を考えてるのか、外には殆ど伝わってないが、色々考えてるらしい大上さん。
“前へ前へ”でもなく、かといって、冷めてるわけでも無く。
考えれば考えるほど大上さんという人は不思議な人だが、こういうスタンスって大上さんだから許されてる位置なのかもしれない。
何か、そういう雰囲気を持って生まれて来た人のような気がする。
(01.7.27記)
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