鶴瓶と誰かと鶴瓶噺 (07/9/29 atそごう劇場)
定刻より2〜3分早く開演。
開演時刻が遅れるライブは数々経験したが、予定より早く開演するライブは初めて。
前半1時間は洋服姿でスタンダップトークの「鶴瓶噺」。
今回の私落語は玲子夫人が主人公の「回覧板」ということもあり、奥さんとのエピソードが主だった。
鶴瓶さんが非常に愛妻家であることは、鶴瓶さんに興味を持っている人なら周知の事実だが、本当に臆することなく玲子夫人の素晴らしさを語っていた。
「僕はあの人じゃないと駄目なんですけど、あの人(玲子夫人)は誰と結婚してもしっかりした家庭を作っていたと思いますね」
という発言が印象深かった。
その後、今回のゲストである立川志ららさんを呼び、記者会見形式のトークを少々やって仲入り。
仲入り後は
「権助魚」(立川志らら)
「回覧板」(笑福亭鶴瓶)
「死神」 (笑福亭鶴瓶)
という順で落語。
鶴瓶さんは二つともマクラ抜き。
鶴瓶さんの落語は“情”が溢れている。
それは時に、批判の材料に使われる。
噺に鶴瓶さんが出過ぎてしまい、原典が持つ味わいが薄まったりするからだ。
私が鶴瓶さんに、そして大いに落語にのめりこむきっかけとなったのは、昨年の青山寄席で聞いた「たちぎれ線香」という噺である。
この噺も、あまりアレンジを施していない初期の方がどちらかというと好みに合うのだが、上記のようなこともその理由の一つである。
今回の死神も途中までは、いつもの鶴瓶さんの形のようだなと思った。
「死神」という落語は、情愛といったものからは遠い世界の噺なので、しっくりこないようなどこか落ち着かないような感じを覚えた。
そんな居心地の悪さは、サゲを聞いた途端一変する。
バカバカしいサゲで終わるかと思いきや、一呼吸おき、ぽつりと発せられた本当のサゲ。
それには「鶴瓶版・死神」が持つ残酷さ、執着心、狂気が凝縮されていた。
「鶴瓶版・死神」のそれまでの行動や言動に潜んでいた本当の理由がそのサゲにより明らかとなった瞬間、自分の頭の中でぼんやりと想像していた「鶴瓶版・死神」が、一瞬にして舞台に本当に現れたような錯覚を覚えた。
目的を果たし、満足げににやりと笑っている死神の表情が見えたように思い、ぞっとした。
そして、「たちぎれ線香」とは180度違う、凄まじくどろどろとした強烈な世界を口一つで見せてくれた鶴瓶さんにぞくっとした。
(鶴瓶、すげぇ!何だよアンタ、本当凄いよ!(※興奮のあまり敬称略))
と、今年も圧倒された。
きれい・きたない。
つよい・よわい。
まじめ・ふまじめ。
ただしい・ずるい。
繊細・したたか。
人間が持つ色々な面全てを愛している人がやらないと、この噺は展開しないと思う。
このサゲは、やるのが鶴瓶さんだから余計に活きているようにも思う。
(07/10/3 記)