大銀座落語祭2008
<7/18 究極の東西寄席Aブロック at:銀座ブロッサム中央会館>※第2部以降 □第2部 笑福亭鶴瓶・笑福亭笑瓶親子会 ・開口一番:笑福亭由瓶「看板の一(ピン)」 鶴瓶さんの11番弟子の由瓶さん。 博打に興じる若者から金を巻き上げようとする老人が啖呵を切る時の威勢が良すぎる(柄が悪すぎる)ような気がした。 東京の噺家がこの噺を掛けるときの老人は、大概いぶし銀の渋さを持つ人物のように演じられるからかもしれないが。 その分、若者はどこか抜けていて憎めない感じに演じられて、バランスが取れていた。 噺の運びはとても分かりやすかった。 ・笑福亭笑瓶「横山大観」 出てくるなり「よし子ちゃんよ〜」。 これをやらないと始まれない感じらしい(笑)。 今年高座用の着物を着たのは今日で2回目とのこと。 若い頃のエピソードとして、六代目松鶴の運転手をピンチヒッターでやった時のことを話す。 若い頃はローリング族で鳴らしていたらしい笑瓶さん。 六代目を乗せているので安全運転を心がけていたが、そういうおとなしい行動は六代目が最も忌み嫌うもの。 みるみる機嫌が悪くなったので、もともとの六代目の付き人の方が笑瓶さんにもっとスピードを上げてくれないかと頼んできた。 そうなると腕が鳴った笑瓶さん。 さながらサーキットを駆け抜けるF1マシンのように一般道を爆走。 六代目みるみるご満悦。 「横山大観」は奥さんの実家から横山大観作と思われる絵が発見されたことから始まる騒動を描いた笑瓶さん作の落語。 どうやら鶴瓶一門は自分の身に起きた新作落語については「私落語(わたくし落語。命名者は南原清隆さん)」と呼ぶ模様。 元々は鶴瓶さんが自分の経験を基に作った落語のことのみを指していたと思うが。 トーク番組やバラエティ番組に出ている笑瓶さんを見る時は、鶴瓶さんの面影や口調を感じることは殆どないといっていいが、落語では時々鶴瓶さんの口調に似ている部分を感じることがあって不思議な感じだった。 ・笑福亭鶴瓶「厩火事」 弟子の落語を聞いたことが無いので、いつ頃出ればいいのかタイミングがつかめず、何度も楽屋と袖の無駄な往復をしてしまった、と鶴瓶さん。 夫婦いうものは男が我慢すれば大概のことはうまくいくんです、と力説し出す。 こういう流れだと玲子夫人が出てくる「回覧板」という私落語が始まるのが通常だが、前の笑瓶さんも夫婦を扱った私落語なので同じような噺をすることはありえない。 何が始まるのかなぁとわくわくしていたら、 「兄さんの前やけど、今日という今日はホンマに愛想もクソもつきましたっ!」 と話し出したので、(厩火事だ〜っ!)と嬉しくて顔も思わずほころんだ。 鶴瓶さんの「厩火事」は昨年の2月に偶々行った繁昌亭で聞いたことがあるが、年下の甘ったれダメ亭主に腹が立つのにそれでも亭主のことを好きで好きでたまらなくて、いつか亭主が自分の前からいなくなるのではないだろうかとか、自分のことを本当に愛してくれているのだろうかとか、不安とやきもちにさいなまされる年上女房のおさきがいじらしくて、(うわぁ〜、この噺好き〜。こんなに可愛い女性を演じられる鶴瓶さんもやっぱり好き〜、素敵〜)と、聞きながらわくわくきゃっきゃきゃっきゃした覚えがある。 鶴瓶さんの「厩火事」は古今亭志ん朝師と桂文楽師の影響を受けていると本人が語ってらっしゃるインタビューを読んだので、志ん朝師が「厩火事」をやっているCDを聞いたこともある。 鶴瓶さんの落語は、1回目、2回目、と回を重ねるたびに受ける印象が違ったりすることが個人的に多いが、「厩火事」は最初に聞いた時と変わらず、おさきのいじらしさが愛おしくて、胸がキュッとなった。 「お前に怪我されたら明日から遊んで呑まれへん」 というサゲはそこに至るまでの亭主の描写がカギだなぁと思う。 いつもおさきは忙しくて自分と一緒に夕食も食べる暇がないが、今日は一緒に食べられるというから楽しみにしてたのにとか、夫婦喧嘩の果てにぷいっと出て行ったおさきが帰ってくるまで先に食事をしなかったとか、この旦那のことをおさきが嫌いになれない理由と思われる可愛らしいエピソードがちょいちょい挟まれるので、このサゲでも興ざめはあまり覚えない。 □第三部:桂文珍の会 左鼻にティッシュを詰めて出て来られたので(何?)と思ったら、「二酸化炭素の排出を半減させようと思って来ました」とおっしゃると平然と詰めていたティッシュを抜く文珍師匠。 ヤンタンで「小ネタやギャグを挟みすぎるほど挟んで貪欲に笑いを取りに行く文珍師匠」のことが話題になっていたのを思い出した。 トリになればなるほど時間が押すので、あまりトリは良いものじゃないらしい。 そう言いつつも「地獄八景亡者戯(ダイジェスト版)」と「ヘイ!マスター」の二席を披露。 時間が無いと思えないほどボリュームある笑いだった。 「ヘイ!マスター」は英語落語だが、それでも大阪弁のベタさは隠れられず、そこが面白い。 |
<7/21 桂雀三郎の「らくだ」を聴く会 at時事通信ホール> ・桂ちょうば「平林」 早く終わって帰りますわ、と飄々というちょうばさん。 お使いを頼まれた小僧さん。 相手先の名前を忘れたが、届け物に書いてある相手の名前も字が読めず分からないため、道行く人に聞くけれどもこの人達も字を読めず、それぞれもっともらしい読み方を解釈し…という噺。 面白かったです。 ・桂雀五郎「手水廻し」 雀三郎師の二番弟子という雀五郎さん。 「手水」を飲み干すところは、想像しながら聞いていたら若干気持ち悪くなりました…(^^;。 それだけ上手いんでしょうね。 ・笑福亭鶴瓶「青木先生」 「『大銀座落語祭』も今日で本当に最後ですよ。…始めたんやから終わらせんでもエエのに」 と、今日はのっけから少々悪べえモードの鶴瓶さん。 全ては“中々心を開かない金髪”氏が握り、自分達はそれに従うのみだとも。 ほとんど落語をしていなかった5年前、「あなたなら出来る」と乗せられ落語会に出るようになったのは良いが、そうそうたる大看板が並ぶ中、トリをやらされることが続き、「あれはいじめですよ、本当。オレ、警察に訴えたろか思うたわ」とぼやく。 落語回帰と同時期に物凄い円形脱毛症も発症なさった鶴瓶さんだが、当時の心境はこちらが想像する以上だったのかなぁ…と思う。 本人的には殆ど内容を知らされぬまま気づけば乗せられていた「六人の会」発足当時。 周りを見渡すと、現在9代目の名跡を継いだあの方の背中だけはとりあえず見えていたので、(この背中には追いついたれ)とつかんだ背中は離さないようにしていたとか。 無我夢中の感じで進んだ5年だったが、“自分の身に起きたことは自分にしか喋れない”ということに気づき、「私落語」を作ってからは、何となく自分の落語の形が見えてきたそう。 今日は2番目に作った「青木先生」を掛ける。 「青木先生」で楽しいのは、噺を聞きながら、<スルガ考案:青木の"ピーッ”を鳴らさせる作戦>に自分もクラスの一員として参加している気になること。 そして、(青木先生は何回「かくれんぼ・嶋岡 晨」の詩を板書すれば気が済むんだろう)とも思う。 落語会に行くのは今日が初めて、という友達は「青木先生」について、「凄く面白かったけど、最後はジンと来た」とのことで良かった。 ・桂雀三郎「らくだ」 仲入り後に登場の雀三郎さん。 「パンフレットには“長講・らくだ”てあるけど、私の“らくだ”すぐ終わりますよ。何で“長講”て入れたんか分からんのやけど」とのこと。 さらに、途中で終わりますよ、とも。 米朝師匠につけてもらった途中でサゲる形そのままでやってますから、とのこと。 雀三郎さんの「らくだ」は確かに早かった。 別に端折ってないし、早口でもないのにあっという間に紙くず屋は酔っ払って豹変し、熊五郎を引き連れてらくだを火屋に運び出したので、(これは『冷や(火屋)でも構わん、もういっぱい』まで行くんじゃないのかな)とちょっと期待したが、「か〜んかんのう、かんかんのう。ら〜く〜だ〜のそ〜れんじゃ〜」と謡いながら長屋を出て行くところでサゲだった。 鶴瓶さんや文珍さんの「らくだ」を聞いた時、大爆笑するような明るい噺ではないなぁと思ったが、雀三郎さんの「らくだ」は本人の飄々としたニンが噺にも出ていて、どこかからっとしたものを感じた。 「かんかんのう」の節回しが今まで聞いたことがある人達と微妙に違っていたが、「ヨーデル食べ放題」という大ヒット曲がある雀三郎さんなので、こちらの方が正調なのかも?なんて思ったり。 <7/21 大銀座落語祭フィナーレ 第2部「桂三枝・笑福亭鶴瓶 二人会 」>at 新橋演舞場 ・三遊亭金時「紙屑屋」 三遊亭金馬師匠のご子息ということで、同じく落語家の父(そして祖父)を持つ六人の会メンバー・柳家花緑師の坊ちゃんエピソードをマクラに挟んだ後、若旦那が主人公の「紙屑屋」を掛ける。 ・笑福亭鶴瓶「死神」 「金髪王子が…」と、夜の部も悪べえモードは変わらず。 金髪王子の指令で、昨年の「東西落語研鑽会」では「死神」を卸したが、“自分がやる「死神」は二段オチである”ということが撥ね太鼓を叩くお弟子さんに上手く伝わっておらず、最初のサゲで太鼓を打たれてしまって消化不良だったので、リベンジを果たしたい、ということで「死神」を披露。 三遊亭円朝の原作を変えに変えてしまったので、報告と挨拶をしに円朝のお墓参りをした鶴瓶さん。 円朝の立派なお墓の隣に「ぽん太」と書かれている墓を発見。 (弟子の墓?ペットの墓?)と予想がつかない鶴瓶さんだったが、大銀座〜の飲み会に行ったら偶々円朝を扱ったお芝居に出た古今亭志ん五師と同席することが出来、しかも志ん五師は“ぽん太”役だったそうで謎が解決。 お弟子さんとのこと。 しかし、それならそれで 「何で師匠と一緒の墓に弟子が入んねん。一緒の墓に入りたい言うたんかなぁ、お前も師匠と一緒の墓入れって殺されたんか。死んでまで師匠とこおりたないわぁ。松鶴が『われぇ〜っ!』って隣おんねんで」 と三遊亭円朝とぽん太の不思議な師弟関係に新たな疑問が湧いた模様。 「死神」は先月に三鷹の落語会でも見ることが出来たが、あの時は若干バタバタしている感じだった。 今回は去年やろうとしたことを忠実に再現しているように思えた。 息絶えた男を見た死神が「どうしたん?…でも嬉しいわぁ。これでやっと一緒なれる」というサゲは、恐らく昨年の研鑽会とほぼ同時期に行われたそごう劇場の独演会で私が見たものとほぼ同じだったと思う。 そごう劇場で見た時は、舞台照明も青白くて、「…これでやっと一緒やね」と言いながらにやりと笑ったあの鶴瓶さんの表情と口調は、“怪談もの”以外に括れなかった。 恋心が狂気に行き着いたと思わせる演出だったので、今まで悲恋ものや純愛ものしか見たことがなかった鶴瓶さんの違う一面を見たような気がして、ぞくっとした。 今日見たものはセリフ自体はブラックでも声の調子は明るめだったので、少し恐いけれども“恋愛もの”“人情噺”にくくられても違和感はない演出だった。 ・柳家花緑「不動坊」 仲入り後に出て来た花緑師。 金時さんがマクラで使ったエピソードや、鶴瓶さんが発した「金髪王子」などをさりげなく取り入れながら「不動坊」を始める。 有名な噺だが今まで聞いたことがなかったので嬉しかった。 ・桂三枝「誕生日」 上方落語協会会長がいよいよ登場。 沢山楽屋があるのに何故か副会長(鶴瓶さん)と同室らしい。 副会長が着物を着ているのは高座に上がっている間だけで、裏では素っ裸でうろつきまわっているそう。 真珠婚式、金婚式と時を重ねた老夫婦。 米寿を迎える父親のため、子供がお祝いの誕生会を開いてくれることから展開する「誕生日」。 年のため物忘れや勘違いが増える父親がサゲでやりこめるところが面白かった。 一旦降りた幕が再び開くと、「六人の会」メンバー+三枝会長&いっ平師&小米朝師が登場。 初めて「六人の会」のフルメンバーを見た。 昇太師が客席に手を振ったので、なんとなくこちらも振り返す。 六人の会メンバーで着物を着ていたのは鶴瓶さんのみだったような。 段取りを間違えたことをいっ平さんに指摘された鶴瓶さん。 「オマエに言われるとはなぁ」とぼやく。 大銀座落語祭を終えることについて挨拶する小朝さん。 地方に持って行きたかった、とのことで来年は宮崎で大落語祭が開催決定。 VTRで東国原知事も登場。 最後は小朝さんの音頭で三本締め。 こんな豪華な落語祭を今まで開いてもらえたことに、三本締めをしながら心の中で「ありがとうございました」と感謝の弁を述べた。 |