五代目桂 文三襲名披露興行
09/6/14 国立演芸場

<前半>

 1..桂三若:「カルシウム不足夫婦」

 (若いけれど、ちょっと倦怠期を迎えた夫婦のツンデレなやり取りが小気味よく耳に入ってきて面白かった。
 ただ、三若さんは、実生活では関口まいさんと結婚しているため、まいさんとのやり取りもこんな感じかしらと思っていたら、だんだんとざこば師匠(まいさんの実父)の顔が浮かんでくる事態に..)

2.柳亭市馬:「かぼちゃ屋」

 (座布団の分厚さに「さすが吉本興業」と感心する市馬さん(笑)。普段の寄席で使う座布団の薄っぺらさをお客さんに切々と説く。

 「かぼちゃ屋」はいわゆる与太郎もの。
 なるほどなあ、と思うサゲだったが、あまり私の好きな系統の噺ではなかった)

3.笑福亭鶴瓶:「青木先生」

 (ひたすら6月27日公開「ディア・ドクター」の宣伝に余念がない鶴瓶さん。
 「ディア・ドクター」といい、「おとうと」といい、恐らくそこがストーリーの要では?と思うエピソードを本人がぼろぼろ暴露しているので、まだ見ていないのに8割方映画のあらすじは頭に入ってしまったような。
 
 五代目文三の良いエピソードとして、襲名が決まってから、歴代の文三のお墓をきれいに建て直したことを客に話す鶴瓶さん。
 しかし、自分も毎月欠かさずに歴代松鶴のお墓参りをしていることをすかさず、披露。
 松鶴だけで7人いるのに、落語に取り組むようになってからは、その噺を得意とした先輩や作者のお墓も一緒に参ることにしたため、墓参りだけで2時間は優に掛かり、終わるころはへろへろだとか。

 青木先生は、板書をする場面が頻繁にあり、声をうまく拾えないかもしれないから、と国立演芸場のスタッフさんに「ピンマイクを用意してもらって良いですか?」と普段の寄席の時と同じような感覚で訊ねたところ、なんと「ピンマイクは別料金となりますが...」と、ここが国の管轄であることが如実に分かるお役所気質満載の返答。
 セット以外のものを頼むと、別料金はもちろんのこと、書類申請やらの手続きを踏まないとダメらしく、ピンマイクは諦めた鶴瓶さん。
 地声で乗り切る)

4.桂三枝:「ぼやき酒屋」

 (大阪は2、3週間前は本当に大変でした、と新型インフルエンザ騒動を振り返る三枝さん。
 客席はマスクだらけで、笑ってるのかどうか反応をうかがうのも一苦労。
 観光客の足も遠のいているので、前日は新橋で大阪市長と一緒に大阪観光PRを行ったが、人が苦労しているそばから、新型インフルエンザの感染レベルがフェーズ6に引き上げられてしまい....と若干嘆きモード。
 その後も、大阪はもう大丈夫ですからと連発してらっしゃった。

 ぼやき酒屋はその名の通り、居酒屋でぐだぐだとぼやきながら酔いつぶれる酔っぱらいと、そんな酔っぱらいに居据わられてしまう店主のやり取りの落語。
 場面がリアルに浮かび、面白かった)
 

<仲入り>

今回は一番前の席だったので、舞台袖の向こうのやり取りがつぶさに聞こえてきたが、かなり慌ただしそうな感じが伝わってきた。


<襲名披露口上>

全員紋付き袴を着て、うつむいているけれど、特徴的な髪型なので、(あっ、鶴瓶さん、ほぼ私の前にいらっしゃる!)と、ついつい顔がほころんだ。

口上では、襲名する文三さんは顔を上げられない。
 拍子木が鳴りやみ、きん枝さん(司会)、市馬さん、鶴瓶さん、三枝さん、文珍さんは顔をあげたが、きん枝さん以外はどの方も何か笑いだすのをこらえている感じ。
 市馬さんに至っては、ある意味悲壮感が漂ってきそうなほどの我慢ぶりが伝わってくる。

悪いことは重なり、、「文三」を「文枝」とのっけから素で言い間違える(^^;。
 このことに対し、居並ぶ上方落語界の重鎮達のツッコミの素早いこと、素早いこと。

 市馬さんはこれで緊張が解けたのかどうか分からないが吹っ切れた感じになり、相撲甚句に乗せて口上を披露。
 桂文福さんがここにいらっしゃらないことが非常に惜しまれた。

朗々とした相撲甚句を披露されてしまったので、この後に続く平成の上方落語重鎮3人衆は非常に困惑。
 この後やりにくいわー、次誰?とぼやく三枝さんに、「大丈夫です、クッション挟みますんで。ではお願いします!」と鶴瓶さんに振るきん枝さん。
 クッション呼ばわりに唖然としながらもツッコミに行く鶴瓶さん。

 気を取り直すとまず、襲名披露興行出演の約束を取り付けに、自宅にアポなしで朝からいきなりやって来たきん枝&つく枝(当時)コンビをちくちく責める鶴瓶さん。
 というのも、こういう場合はご祝儀を渡すのが慣例だが、それは前もって訪問のアポが取り付けられていることが前提。
 、「いきなりねー、朝やって来て。祝儀渡さなあかんのですよ。用意してないがな。たまたま財布に入っとったから良かったもんやけどね」
 と訴えたところで、「いや、あん時奥さんから借りてたで」と、冷静な指摘がきん枝さんから入る。
 結局、今日一番訴えたかった「『ディア・ドクター』見てくださいねー!」と、文三襲名となんら関係ない自分の主演映画の宣伝で口上をシメる。

三枝さんは、五代目文枝が病床で、やせ細った身体で声を振り絞りながら「『ぜひとも文三の名はこのつく枝に.』..というのは、まぁ、なかったんですが」というノリツッコミをかましたので一同コケたものの、東京落語界代表の市馬さんのコケぶりが一番吉本新喜劇調だった。

 ともかくも、十八番弟子が文三という大名跡を継ぐことについて、文枝一門からは何も異論は出なかったことは、本人のニンの良さによるものです、と。

同じく文枝一門の文珍さんは、文三さんの器用さをあらわすエピソードとして、複雑な人間関係を器用にわたり歩いて行くところをあげていたが、“携帯電話”、“メール”と、このエピソードを話すうえで重要なキーワードとなるものをあげたそばから、文三さんはうつむいたまま必死に拝み倒して、暴露をやめるよう懇願していた(^^;。

司会を務めたきん枝さんもどこか詰めが甘いので
 「財団法人上方落語協会」、「上方落語協会会長二期目の桂三枝」
 など、ちょいちょい肝心なところを間違えていて、その度に重鎮三人衆から激しいツッコミが飛ぶ(「誰や、この人呼んだん!」(by社団法人上方落語協会副会長・笑福亭鶴瓶))。

しかし、堅苦しさや大名跡を襲名するプレッシャーから来る悲壮感などといったものとは一切無縁の、陽気な襲名披露口上となり、私自身はこの口上に立ち会えたことが非常に楽しかった。

<後半>

5.桂文珍:「茶屋迎い」

 (ミイラ取りがミイラになる噺。華やかな鳴り物づくしで、上方の色香を感じられる贅沢な噺だと思う。
 本物の遊びをやったことがないと、色街の世界の描写は出来ないのかもしれないと、最近は思う。
 しかし、“(女)遊びは芸の肥やし”というものを受け入れる気ははないけれど)

6.桂文三:「崇徳院」

 (本日の本当の主役登場。
 散々先輩方に言われていたけれど、本当に陽気な人柄で、噺にも大らかさが漂い、聞いてるこちらも伸びやかな心地になる。

 大名跡を継ぐことは、ずっとつきまとうプレッシャーとの闘いにもなると思う。
 誇らしげな心持ちだけではいられなだろうが、これから先落語を知る人にとって、“桂文三”は目の前にいるこの人のことを指すのだと思うと、“五代目・桂文三”の噺や人柄がどのように語り継がれていくのか、リアルタイムで追いかけることができる幸運に感謝したい。
 
 しとしと雨が降り続く東京での襲名披露興行だったが、終演後はとても晴れやかな気持ちで会場を後にすることができた。

(09/6/18記)

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